筋肉断裂は全身のあらゆる骨格筋で起こり得ますが、力学的ストレスが集中する特定の部位に好発します。それぞれの部位によって受傷機転と初期症状の出方に際立った特徴が存在します。
1. ハムストリング断裂(太もも裏の悲劇)
スプリント動作やサッカーのキック、急激なストップ動作で最も頻発するのがハムストリング断裂(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)です。太もも裏に電撃的な痛みが走り、膝を曲げる動作が完全に不能になります。特に大腿二頭筋の長頭腱付着部(坐骨結節付近)で引き剥がされるような断裂を起こした場合、歩行時に体重を支えられず、膝折れを起こしてその場に倒れ込むケースが後を絶ちません。
2. ふくらはぎ筋肉断裂(テニスレッグとアキレス腱の鑑別)
テニスやバドミントン、市民マラソンで中高年に多発するのがふくらはぎ筋肉断裂(腓腹筋内側頭断裂)です。通称「テニスレッグ」とも呼ばれ、踏み込んだ瞬間にふくらはぎ中央やや内側に激痛が走ります。アキレス腱断裂と受傷感覚が極めて酷似しているため鑑別が必須となりますが、ふくらはぎの肉離れ・筋肉断裂ではつま先立ちが激痛で不可能となり、アキレス腱部ではなく筋肉の膨らみ(筋腱移行部)に強い圧痛と陥凹が現れるのが病態学的な指標です。
3. 上腕二頭筋腱断裂(力こぶの変形とポパイサイン)
重量物を力任せに持ち上げた瞬間や、コンタクトスポーツの着地で発生するのが上腕二頭筋腱断裂です。特に長頭腱の断裂が多く、肩関節周囲の腱が切れることで、力こぶを形成する筋腹が肘側へ垂れ下がる特徴的な変形(通称「ポパイサイン」)が出現します。激痛は受傷直後がピークで、完全に切れてしまうと神経終末の緊張が解けて痛みが引くことがありますが、腕の回外力(ドアノブを外側に回す力)や屈曲筋力は著しく減退します。