「千切りにしたじゃがいもは、変色を防ぎアクを抜くために冷水へ放つ」。家庭科の教科書や伝統的な料理本に刷り込まれたこの常識こそが、ガレット作りにおける最大のトラップだ。フランス語で平たく丸い形状を意味する「じゃがいものガレット」において、細切り同士を密着させて円盤状に成形する接着剤の役目を果たすのは、他でもない芋自身が持つ「でんぷん質」である。
水に晒した瞬間、包丁の断面から染み出たでんぷんは無慈悲にも排水溝へと洗い流される。結果としてつなぎを失った芋はフライパンの中で寄り添うことをやめ、崩落する。プロが声を揃えて「絶対に水へ晒すな」と警告するのはそのためだ。皮を剥いたら洗わずにそのままスライサーで細切りにする。包丁の刃先で細胞を押し潰さず、繊維に沿ってシャープに刻むことで、過剰な水分を出さずにでんぷんの粘着力だけを最大限に引き出すことができる。