身体に傷がついたり細菌が侵入したりしたとき、私たちの体内では精緻な緊急防衛プログラムが作動します。これが急性炎症のメカニズムです。炎症の5徴候である「発赤(ほっせき)」「熱感(ねつかん)細」「腫脹(しゅちょう)」「疼痛(とうつう)」「機能障害(きのうしょうがい)」は、それぞれが独立して起きているわけではありません。生体を守り、組織を再生へ導くための一連のドミノ倒しのような反応として発生します。
その引き金を引くのが、マスト細胞やマクロファージ、血小板などから放出される「炎症メディエーター(化学伝達物質)」です。組織がダメージを受けると、即座にヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジン、ブラジキニン、ロイコトリエンといった化学物質が一斉に放出されます。これらが毛細血管や神経受容体に働きかけることで、5つの徴候が連動して姿を現します。
まず「発赤」と「熱感」が起きる理由は、局所の細動脈が拡張し、平常時の数倍から10倍近くに達する血流の急増(充血)にあります。ヒスタミンや一酸化窒素(NO)の働きで血管平滑筋が弛緩すると、温かい動脈血が大量に流れ込みます。その結果、皮膚の表面が赤く見え、触れると熱を帯びるのです。
続いて生じる「腫脹」の決定的な理由は、「血管透過性亢進」にあります。通常、血管壁の内皮細胞同士は密着していますが、ヒスタミンやロイコトリエンが作用すると内皮細胞が収縮し、細胞間に隙間が広がります。そこから血漿タンパク質(アルブミンなど)や水分が組織間隙へと漏れ出し、局所的な浮腫(むくみ)を形成します。この漏出液には病原体と戦う抗体や補体、そして白血球が豊富に含まれており、腫れること自体が免疫軍団を戦場へ送り届けるための必須プロセスなのです。
そして「疼痛」は、侵害受容器が二重の刺激を受けることで引き起こされます。第一に、組織破壊によって生じるブラジキニンが知覚神経を強力に刺激します。ここにプロスタグランジン(PGE2など)が加わることで痛みの閾値が下がり、痛覚が劇的に増幅されます。第二に、腫脹によって組織内の圧力が上昇し、物理的に神経終末を圧迫することも持続的な鈍痛の原因となります。
最後の「機能障害」は、激しい疼痛と組織の物理的な腫れ、さらには細胞自体の損傷が合着した結果、その器官が本来果たすべき役割を正常に行えなくなる状態を指します。関節が腫れて曲がらなくなったり、激痛で体重をかけられなくなったりする現象がこれに該当します。一見すると不利益に思える機能障害ですが、「患部を動かさず安静に保たせる」という強力な治癒促進作用を担っています。