目に異物が入った瞬間、人間は無意識にまぶたの上から強く圧迫して擦ろうとします。しかし、目を擦ってはいけない理由は極めて明確です。虫の体は昆虫特有の外骨格(キチン質)で覆われており、微細なトゲや硬い脚を持っています。擦る圧力が加わると、眼球の表面を覆うわずか約0.5ミリメートルの角膜にそれらの破片がヤスリのように擦り付けられ、一瞬で広範囲の角膜損傷症状(角膜上皮剥離や角膜潰瘍)を誘発します。
さらに危険なのが、アオバアリガタハネカクシ(通称やけど虫)やカメムシ類などの有毒昆虫です。眼球上で虫を押しつぶしてしまうと、ペデリンなどの有毒な体液が眼内に直接放出されます。これにより、激しい灼熱痛を伴う線状皮膚炎や角膜炎、前房蓄膿といった重篤な眼障害に発展し、不可逆的な視力低下を招く恐れがあります。「痛いから擦って取り出そう」とする行為は、自らの手で毒や凶器を角膜に擦り込んでいる状態にほかなりません。
臨床現場の医師らも「虫混入による角膜損傷の8割以上は、虫そのものの衝突ではなく、患者自身が強く擦ったことによる二次被害」と警鐘を鳴らしています。異物を感じた瞬間は、まず両手を眼球から遠ざけ、まばたきを繰り返して涙の分泌を促すのが鉄則です。