医学・生物学において左右の虹彩で色が異なる状態は、虹彩異色症(ヘテロクロミア)と呼ばれる。この現象の根底には、発生初期に神経堤(しんけいてい)から遊走するメラノサイト(色素細胞)の挙動が深く関わっている。かつて進化論の祖であるチャールズ・ダーウィンも、その著書『家畜および栽培植物の変異』の中で、白毛と青い瞳、そして聴覚障害の相関関係について鋭い観察記録を残していた。
動物遺伝学の知見が深まった現在、色素の沈着を司るメラニン色素生成遺伝子のネットワークが徐々に解明されている。通常、黒猫はユーメラニン(黒〜褐色色素)を過剰に生成する対立遺伝子を受け継いでおり、虹彩にも濃いメラニンが送り込まれることでカッパー(銅色)やゴールド、ヘーゼルの瞳を形成する。
代表的な純血種であるボンベイ(猫種)を見ればわかる通り、漆黒の毛並みにはゴールドやカッパーの瞳が定着するのが遺伝学的な王道だ。しかし、胎児の段階で片側の虹彩へのメラノサイト遊走が何らかの局所的シグナル異常によって阻害されると、色素を欠いた瞳はレイリー散乱によって青く発色する。全身の黒色遺伝子と局所的な脱色素化のせめぎ合いが、奇跡のバイカラーアイを創り出す。