一体なぜ、このような無謀とも言える企画が成立したのでしょうか。公式発表資料や当時の制作陣(DLEやテトラなどの気鋭クリエイター)のインタビューを振り返ると、キャスト全員山寺宏一の理由には、緻密に計算されたマーケティング戦略と制作側の強烈なリスペクトが隠されていました。
ショートアニメという枠組みは、テレビシリーズに比べて制作予算やプロモーション規模が限られます。その中で原作ファンおよびネットユーザーの目を引くためには、常識の枠を超えたインパクトが不可欠でした。「毎エピソード1人の声優が全役をこなす」というフォーマット自体がすでに強烈なフックでしたが、最終話に向けて制作陣が直面したのは「速水奨、千葉繁、関智一というレジェンドたちのバトンを受け止め、それを凌駕するフィナーレを誰に託すか」という高いハードルでした。
そこで白羽の矢が立ったのが、業界内で「七色の声を持つ声優」と称される山寺宏一氏でした。「山寺さんなら、人間だけでなく島の生物や効果音まで全部1人でやれるのではないか」という制作側の半ば無茶振りとも言えるオファーに対し、山寺氏はプロフェッショナルとしてのプライドを懸けて受諾。結果として、山寺宏一の一人全役の真相は、単なる予算削減などではなく「声優界の頂点による職人技の限界実験」という、エンターテインメントの極致として結実したのです。