今でこそ語り草となっているこのキャスティングですが、実は最初から若き日の春子役としてオーディションが開催されたわけではありませんでした。有村架純はもともと、ヒロイン・天野アキ役のオーディション(応募者数1,953人)に挑戦していました。
最終選考近くまで進んだものの、惜しくもヒロインの座は逃すことになります。しかし、審査を担当していた脚本の宮藤官九郎やチーフ演出の井上剛をはじめとする制作陣の目は、彼女が放つ独特のオーラを見逃しませんでした。当時の制作統括関係者の証言によると、「受かった能年玲奈の圧倒的な天真爛漫さとは対照的に、有村架純にはどこか昭和の少女特有の影と、内に秘めた意志の強さがあった。小泉今日子さんが演じる天野春子の青年期には、彼女しかいないと満場一致で決まった」と振り返られています。
「ヒロインに落ちた」という挫折を経験しながらも、巡ってきたチャンスに対して有村は徹底的なアプローチを試みました。小泉今日子の過去の映像や写真集、当時の歌唱スタイルを徹底的に研究し、髪型はもちろん、首の傾げ方や笑ったときの口元のニュアンスに至るまで自身に落とし込んだのです。単なる容姿の類似を超え、「小泉今日子の魂の記憶」を憑依させたかのような演技は、オーディション落選という挫折をバネにした凄まじい集中力から生まれました。