小学校1年生の秋、全国の家庭から聞こえてくるのが「天まで とどけ、一、二、三。」という「くじらぐも」の音読の声です。SNS上でも毎年のように「くじらぐもの音読を聞くと自分の幼少期を思い出す」「親子のコミュニケーションになる」と話題になりますが、教育現場における実態は微笑ましいエピソードだけにとどまりません。
現役の小学校教員たちに取材を行うと、1年生に対する音読指導は「ひらがなの拾い読みから意味のまとまりを持った発声への移行」を確認する最重要の関門であることが分かります。「くじらぐも」はリズミカルな体言止めや擬音・擬態語が多用されており、文字を記号としてではなく情景として捉えさせるための設計が極めて緻密です。
一方で、学年が上がって5年生で学習する椋鳩十の「大造じいさんとガン」になると、指導の難易度は跳ね上がります。狡猾な老ハンター大造じいさんと、誇り高きガンの頭領・残雪との知恵比べを通じ、単なる善悪二元論ではない「強敵への敬意」を児童自らに言語化させなければなりません。現場の教員からは「板書計画が甘いと児童の感想が『残雪がかっこよかった』だけで終わってしまう」というシビアな指摘もあり、名作だからこそ教員の指導技術が厳しく試される教材といえます。
さらに現在、文部科学省が進める小学校デジタル教科書の本格配備によって、教室の風景は激変しています。紙の教科書を開きながらタブレット端末で登場人物の行動を時系列マップにドラッグ&ドロップしたり、音声読み上げ機能を使って視覚障がいや発達特性を持つ児童が自立的に読解を進めたりするハイブリッド型の学びが日常化しています。