大手不動産会社や信託銀行、地方の土地家屋調査士への取材を通じて見えてくるのは、「法律上の建前」と「現場の実用性」のあいだに横たわる強固な二重構造です。
計量法第8条の壁:公約数としての「㎡表記」
現行の日本の計量法第8条では、商取引や公的証明における尺貫法(坪・反・町・畳など)の使用が明文で禁じられています。不動産の売買契約書、重要事項説明書、そして法務局の不動産登記記録(登記簿謄本)において、地積は例外なく「平方メートル(㎡)」で記載されなければならず、違反した場合は50万円以下の罰金が科される対象となります。
したがって、公式パンフレットや広告表示においても、面積の主表示は必ず「〇〇.〇〇㎡」で統一され、「坪」を表記する場合はあくまで「(約〇〇坪)」という換算参考値として付記することしか認められていません。
それでも現場が「坪単価」を手放さない心理的要因
それにもかかわらず、なぜ2026年の現在に至るまで不動産業界や投資家は「坪」に執着し続けるのか。都内の大手デベロッパー幹部は取材に対し、次のような現場の心理的リアリティを語っています。
「建築や住環境の設計モジュール(尺モジュール:910mmグリッド)がそもそも尺貫法に直結しています。成人が両手を広げた長さが約1間(約1.82m)、人間2人が並んで快適に寝られるスペースが1坪(約3.3㎡・畳2枚)という身体感覚は、抽象的な10進法のメートル法よりも圧倒的に生活空間をイメージしやすいのです。さらに『坪単価』という指標が土地の相場観を比較する共通言語として数十年にわたり定着しているため、顧客への提案で坪を排除することは不可能です」
公的書類は「平米」で厳格に処理しながら、商談や投資判断の現場では「坪」で頭を巡らせる。このしなやかな使い分けこそが、日本の不動産取引を支える現場のリアリズムです。