進行性核上麻痺が医療現場で「診断の難所」と呼ばれる最大の理由は、発症初期の症状がパーキンソン病と酷似している点にあります。動作が鈍くなる(無動)、筋肉が強張る(固縮)、歩行時に足が出にくくなる(すくみ足)といったパーキンソニズムが前面に出るため、当初はパーキンソン病と診断され、抗パーキンソン病薬が処方されるケースが日常茶飯事です。しかし、病態の本質と進行パターンには決定的な断層が存在します。
最も顕著な判別サインは、「転倒の方向」と「眼球運動障害(垂直注視麻痺)」です。パーキンソン病患者は前傾姿勢をとり、小刻み歩行の加速によって前方につのめって倒れる傾向があります。これに対し、進行性核上麻痺では首や体幹がピンと直立〜後屈する傾向が強く、立ち上がりざまや方向転換時に何の予兆もなく背後へまっすぐひっくり返る「後方突進(レトロパルジョン)」が発症初期(おおむね発症から1年以内)から頻発します。
さらに、視線を上下に動かせなくなる垂直注視麻痺――とりわけ「下を見る動作(下方視)」の制限はPSP特有の決定打です。「食事中に器の中身が見えない」「階段を下りるときに足元が見えず踏み外す」「シャツのボタンを留められない」といった訴えから病気が発覚する場面が目立ちます。また、パーキンソン病特有の手指の静止時振戦(ふるえ)がPSPではほとんど見られず、レボドパ製剤を投与しても症状が目に見えて改善しない点が鑑別の決定打となります。