多くの患者が抱く最大の恐怖は、「薬を投与していない休薬期間中に、がんが再び暴れ出すのではないか」という懸念です。しかし、科学的な抗がん剤休薬期間の理由は、人間の生命維持システムそのものに直結しています。
抗がん剤の多くは、分裂スピードの速い細胞を狙い撃ちにする性質を持ちます。このとき、がん細胞だけでなく、体内で日常的に猛スピードで細胞分裂を繰り返している「骨髄の造血幹細胞」「消化管の粘膜細胞」「毛根細胞」なども同時に強い攻撃を受けます。なかでも最も致命的な影響を受けるのが血液を造る骨髄組織です。
この生体反応が、いわゆる抗がん剤骨髄抑制と白血球減少です。骨髄の造血機能がダメージを受けると、体内の防衛部隊である白血球(特に好中球)の数が激減します。健常時には血液1マイクロリットル中に約3,500〜9,000個存在する白血球が、投与後に急降下し、感染症を防御できない危険水域(好中球500〜1,000個未満)に達することがあります。
抗がん剤を毎日連続して投与し続ければ、がん細胞を死滅させる前に造血機能が完全に破壊され、重篤な敗血症や多臓器不全を引き起こして命を落としかねません。骨髄の幹細胞が再び分裂を始め、白血球や血小板を安全な基準値まで自力で回復させるために必要な生理的インターバルが、まさに2〜3週間の休薬期間なのです。休薬は決して「治療の停滞」ではなく、「次回確実にがん細胞を攻撃するための助走期間」に他なりません。