「走ると歯が痛いのは一体なぜなのか?」という疑問に対し、歯科臨床の現場では主に3つの病態が指摘されています。安静時には無痛であるにもかかわらず、足裏からの着地衝撃が加わった瞬間に歯へ激痛が走る背景には、頭蓋骨の空洞構造と神経伝達の物理的な関係があります。
第1の原因は、歯の神経(歯髄)付近まで進行した重度の虫歯、あるいは根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)です。虫歯が進行して神経が炎症を起こしている(歯髄炎)状態や、過去に神経を抜いた歯の根の先端に膿の袋(根尖病巣)ができている場合、歯の根元を取り囲む組織は極度の充血と内圧上昇にさらされています。歩行やランニングによる数G(重力加速度)の上下振動が加わると、骨の中で浮いた状態の歯根がわずかに揺れ、神経や炎症組織を直接刺激して「ズキズキ」とした強い痛みを発生させます。
第2の原因として極めて頻度が高いのが、副鼻腔炎(蓄膿症)、とりわけ「上顎洞炎(じょうがくどうえん)」です。頬骨の奥、鼻の左右に広がる大きな空洞「上顎洞」は、上の奥歯(大臼歯・小臼歯)の根元と骨一枚を隔てて接しています。風邪やアレルギーによって上顎洞に膿や浸出液が溜まると空洞内の圧力が上昇し、底面にある歯の神経(上歯槽神経)を外側から圧迫します。着地やジャンプの衝撃で上顎洞内の膿が揺れ動くことで、虫歯でもない健康な上の奥歯へ電撃的な響きや重だるい鈍痛が走るのです。
第3の原因は、歯のクッション材である「歯根膜(しこんまく)」の炎症(咬合性外傷)です。走る最中に無意識に奥歯を強く噛み締めている人や、睡眠中の歯ぎしり・食いしばり(ブラキシズム)がある人は、歯を支える厚さわずか0.2mm程度の歯根膜が常に捻挫のような炎症状態に陥っています。そこへランニングの着地衝撃がダイレクトに伝わることで、クッション機能を失った歯が骨に衝突し、強い痛みを引き起こします。