ネット上の掲示板やSNSでは、「親方株さえ手に入れば、すぐに自分の相撲部屋を旗揚げして弟子を育てられる」と誤解されがちです。しかし、名跡の取得と部屋の師匠になることの間には、極めて高いハードルが横たわっています。
日本相撲協会の規定では、相撲部屋を新設するためには名跡を持っているだけでなく、以下の厳しい追加要件を満たさなければなりません。
- 力士実績のさらなる上乗せ:原則として「横綱・大関」「三役通算25場所以上」「幕内通算60場所以上」などの極めて傑出した成績が求められる(例外規定あり)。
- 財政基盤と稽古場の確保:土俵、宿舎、力士たちを養うための強固な後援会組織と不動産資産の保有。
- 一門の承認:所属する出羽海・二所ノ関・高砂・時津風・伊勢ヶ濱といった一門内の総意と協会の承認。
つまり、単に引退して親方株を取得しただけの「部屋付き親方」と、一国一城の主である「部屋の師匠」とでは、求められる格と資力が根本から異なります。自前の部屋を持てない親方は、所属部屋の部屋付き親方として後進の指導にあたるか、先代親方の定年退職に伴って既存の部屋を「承継」する道を模索することになります。
ところが、この部屋継承の場面で頻発するのが、親方の未亡人(おかみさん)や遺族、一門内の利害対立によるお家騒動です。相撲界特有の「擬制家族(親方を父親、おかみさんを母親と擬制する制度)」の絆が強固である反面、名跡と不動産の所有権をめぐって親族と後継力士の間で法廷闘争へと発展するリスクが常に潜んでいます。