青魚の油に含まれる不飽和脂肪酸として知られる両者だが、分子構造のわずかな違いが生体内の局在を大きく分けている。化学構造を見ると、EPAは炭素数20で二重結合が5個、DHAは炭素数22で二重結合が6個という差異がある。この炭素2個と二重結合1個の差こそが、全身での振る舞いを決定づける決定的な要因だ。
最も本質的な境界線は、血液脳関門(BBB)を通過できるか否かにある。脳は生命維持の中枢であるため、不要な物質や毒素の侵入を防ぐ厳格な関門を備えている。DHAはこのゲートを通過する輸送機構を持ち、脳内のリン脂質膜に直接組み込まれる性質を持つ。脳内の脂肪酸組成において、オメガ3脂肪酸の97%以上がDHAで占められている事実がその証明だ。
一方のEPAは、血液脳関門を通過した直後に酵素によって急速に酸化・分解されるため、脳組織内にはほとんど存在できない。その代わり、EPAは血管内皮細胞や血小板膜に素早く入り込み、血栓の形成を抑えるプロスタグランジンI3を生成する。つまり、「血管と血液の防衛を担うEPA」と「脳神経の伝達と柔軟性を支えるDHA」という明確な役割分担が体内で成立している。