健康意識の高い層やインターネット上の健康コミュニティで散見される極めて危険な誤解が、「脈拍が少ないのは、マラソン選手のようなスポーツ心臓だから長生きの証拠だ」という思い込みです。
確かに、長年の有酸素運動によって心筋が鍛えられたアスリートは、洞性徐脈(1回あたりの心拍出量が多いため脈拍が40〜50回でも正常に機能する状態)を示すことがあります。しかし、アスリートの徐脈は「運動をすれば脈拍が自然に70、80、100と速くなる」のに対し、完全房室ブロックではどれほど体を動かして酸素を必要としても、心室補充調律は毎分30〜40回のままピクリとも上がりません。運動時に激しい息切れや胸の圧迫感を伴う徐脈は、スポーツ心臓とは根本的に異なる致命的な病態です。
また、完全房室ブロック原因と予後を正しく理解することも不可欠です。原因の多くは加齢に伴う伝導路の特発性線維化(レネグ病・レブ病)ですが、心筋梗塞による血流障害、心筋炎、心サルコイドーシス、あるいはアミロイドーシスといった特定疾患が隠れている場合もあります。さらに見落とせないのが「薬剤性」です。高血圧や不整脈の治療に用いられるβ遮断薬、カルシウム拮抗薬(ベラパミルやジルチアゼム)、ジギタリス製剤の過剰作用によって医原性にブロックが生じているケースもあり、この場合は被疑薬の中止によって劇的に改善することもあります。