ライブやイベントの入場口で「ドリンク代として別途お支払いいただきます」と案内されるワンドリンク制の仕組みには、運営側の都合だけではない明確な理由が存在します。具体的には「法律上の営業許可区分」と「興行における収益構造」という2つの側面から成り立っています。
1. 法律上の理由:興行場法と飲食店営業許可の境界線
多くのライブハウスがワンドリンク制を採用している最も決定的な要因は、日本の法令にあります。施設で音楽ライブや演劇などの催し物を見せる場合、本来であれば都道府県の興行場法に基づく「興行場」としての許可が必要です。しかし、興行場法の基準を満たすには、換気設備、客席の構造、通路幅、避難経路など極めて厳格な建築・衛生基準をクリアしなければならず、一般的な雑居ビルや地下物件での営業認可取得は極めて困難を極めます。
そこで多くのライブハウスは、保健所から飲食店営業許可を取得する形態を選択しています。飲食店として認められるためには「飲食を提供する場」であることが前提条件となるため、「客に飲食物を注文・提供する」という実態を作らなければなりません。入場時にドリンク代を徴収し、ドリンクチケットを配布して1杯提供する形式をとることで、「音楽を聴かせる飲食店(飲食スペース)」としての法的位置づけを成立させているのです。
2. 収益上の理由:チケット代とハコの維持費の分配構造
もうひとつの側面は、アーティストと会場(ライブハウス側)の収益分配システムです。一般的に、チケット代(入場料)の売上は、出演アーティストへのギャランティやプロモーター側の取り分、あるいはチケット販売手数料などに充てられます。
一方で、会場を維持するためのテナント家賃、音響・照明設備のメンテナンス費、常駐スタッフの人件費、光熱費といった固定費は、会場側が自力で賄わなければなりません。入場時に徴収するドリンク代は、ライブハウス側の直接的な運営原資として機能しており、インディーズシーンや中小規模の現場を支える生命線となっています。