井上和彦さんの代表作を語る上で欠かせないのが、作品の世界観を決定づける象徴的なキャラクターたちと、その収録現場における数々のエピソードです。
『NARUTO -ナルト-』のはたけカカシ役では、オーディション当初から「完璧な適役」として制作陣の熱烈な支持を受けました。井上さんはカカシを演じるにあたり、「マスクで口元が隠れているからこそ、声の表情や息遣いだけで感情を伝えること」に徹底してこだわったと語っています。弟子であるうずまきナルト役の竹内順子さんら若手キャストを温かく見守るスタジオでの立ち振る舞いも、まさに「カカシ先生そのもの」として語り継がれています。
また、『夏目友人帳』におけるニャンコ先生と斑の演じ分けは、声優業界でも伝説的な職人技として知られています。コミカルなニャンコ先生パートと、重厚な大妖怪・斑のパートを別録りせず同一テイクで瞬時に切り替えて演じるその瞬発力は、共演者や音響監督を幾度となく驚嘆させました。
さらに『鬼滅の刃』の継国縁壱役では、登場シーンこそ限られているものの、物語の根幹を揺るがす絶対的な存在感を披露。「最強でありながら、一人の人間として深い悲しみを抱え続けた」という縁壱の複雑な内面を、無駄を極限まで削ぎ落とした静かなトーンで見事に具現化し、アニメ史に残る名演として高い評価を得ています。