日本国内でもすっかり定着した救急車の青い星マークですが、その誕生には意外な権利闘争の歴史が存在します。1970年代初頭まで、アメリカ合衆国の救急車には白地にオレンジ色の十字マーク(オメガクロス)や赤十字に酷似した標章が用いられていました。しかし、これに対して米国赤十字社が猛抗議を行います。「赤十字マークはジュネーブ条約および連邦法によって厳格に保護された戦時救護の標章であり、平時の民間・公的救急車が無秩序に使用することは条約違反にあたる」という正当な指摘でした。
事態を重く見た米国運輸省国家道路交通安全局(NHTSA)の救急医療部門チーフであったレオ・R・シュワルツ(Leo R. Schwartz)氏は、赤十字に代わる新たな救急医療の独自アイデンティティ創出に乗り出します。そうして1973年にデザインされ、1977年に連邦商標として正式登録されたのが「スターオブライフ」でした。
現場を取材した当時の記録文書や医療関係者の手記によると、シュワルツ氏は「誰もが直感的に救急医療(EMS: Emergency Medical Services)と認識でき、いかなる軍事・宗教的対立からも中立である普遍的なアイコン」を目指したと語られています。単なる代替措置として急造されたマークは、その洗練された設計思想によって、瞬く間に世界規格へと駆け上がることになりました。