自民党総裁が「国家のリーダー」として表舞台に立つ存在であるならば、幹事長は「議員一人ひとりの雇用主」にも匹敵する権力者です。総裁がどれほど高い国民的人気を誇っていても、幹事長が党の基盤を握っていなければ政権運営は一日として立ち行きません。この構造を生み出しているのが、自民党幹事長の権限と役割における二大特権、すなわち「公認権」と「選挙資金の配分権」です。
国政選挙において、自民党の公認候補として出馬できるかどうかは、当落に直結する死活問題です。公認権の形式的な最終決定者は党総裁ですが、実務上、支部長の選定や競合区の最終調整を取り仕切るのは幹事長室です。幹事長の一筆がなければ、現職議員であっても公認を剥奪され、無所属での出馬を余儀なくされます。公認を失うことは、党からの選挙資金や比例復活の権利をすべて失うことを意味し、政治家にとって事実上の死刑宣告に等しい威力を持ちます。
さらに強烈なのが資金力です。自民党には国庫から毎年百数十億円規模の政党交付金が支給されるほか、企業・団体献金が集まります。これらを各都道府県連や候補者の支部へどのように配分するかを決める最高責任者が幹事長です。かつて巨額の政策活動費が幹事長個人の裁量で支出されていた時代には、誰にいくら配るかが公表されないまま差配され、これが議員たちを平伏させる無言の圧力となっていました。資金と公認という二大急所を握られているからこそ、若手からベテランに至るまで幹事長室には誰も逆らえない土壌が形成されてきたのです。