猪木が放つ一撃に人々が神聖な意味を見出した理由は、彼が築き上げたキャリアの過激さにある。1976年、ボクシング世界ヘビー級王者モハメド・アリとの死闘は、世界中を困惑させつつも「本物の戦い」への渇望を証明した。ライバルであったジャイアント馬場が王道のプロレススタイルでファンを魅了したのに対し、猪木は常に危険な道を選び続けた。
異種格闘技戦という未開の荒野を切り拓き、自分の身を削ってファンに熱狂を提供するスタイル。だからこそ、彼の放つビンタには口先だけの応援ソングにはない強烈な説得力と「リアリティ」が宿っていた。頬に残る痛みが、迷う人々の目を覚まさせる特効薬となったのだ。