養子縁組に関するネット上の言説には、法的根拠を欠いた誤解や、後から取り返しのつかない落とし穴が数多く存在します。特にリスクの高い3つの盲点を検証します。
第1の誤解は、「関係がうまくいかなければ、いつでも話し合って解消(離縁)できる」という思い込みです。普通養子縁組であれば、当事者双方の合意に基づいて協議離縁届を提出すれば解消できます。しかし、特別養子縁組における離縁は、法律上「原則禁止」です。民法第817条の10では、養親による虐待や著しい不行跡があり、かつ実親が再び子どもを引き取って養育できる場合に限り、検察官や養子、実親の請求によって例外的に離縁が認められます。養親側から「育てにくかったから」「性格が合わなかったから」と一方的に離縁を申し立てることは法的に一切許されません。実の子どもと同じく、生涯にわたる親権と扶養の責務を負う制度設計になっています。
第2の盲点は、普通養子縁組における二重の相続権に潜む負債リスクです。「実親からも養親からも遺産がもらえるため有利」と捉えられがちですが、実親が多額の借金や未払いの債務を抱えて死亡した場合、養子は実の子としてその負債を等しく相続します。実親と何十年も音信不通であったとしても、債権者からの督促状が突然養子のもとに届くケースは実務上珍しくありません。これに対処するには、実親の死亡を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ相続放棄の申述を行う必要があります。
第3の盲点は、「特別養子縁組なら、過去の戸籍を完全に消し去って一生誰にも知られずに済む」という極端な隠蔽願望です。確かに現在の戸籍謄本には養親の実子として記載されますが、相続手続きや公的資格の取得で「出生から死亡に至るすべての除籍・改製原戸籍」を取り寄せる際、家庭裁判所の審判記録に紐づく除籍謄本の編製経緯から、法的な出自の記録そのものは公的に保存されています。さらに後述するように、現代の児童心理学では、出自を完全に隠し通すことは思春期以降の子どもの自己同一性(アイデンティティ)に深刻な危機をもたらすと警告されています。