音羽屋の頂点に立つ七代目尾上菊五郎(本名:寺島秀幸)の核家族は、日本の芸能界における最高峰の才能が集結した特異な構成を持っています。昭和から平成、令和のメディア文化史そのものといっても過言ではありません。
まず妻は、東映任侠映画『緋牡丹博徒』シリーズの「お竜」役で一世を風靡した昭和の大スター・富司純子(旧芸名:藤純子)です。1972年に梨園の御曹司であった菊五郎と結婚した際、芸能界の頂点にいながら電撃引退を選び、名門の「梨園の妻」として音羽屋を支える道を選びました。このトップ女優の血が、子どもたちの身体表現と表現者としての業に多大な影響を与えたことは間違いありません。
そして二人の間に生まれたのが、長女の寺島しのぶと長男の五代目尾上菊之助(現・八代目尾上菊五郎)です。男子のみが舞台に立つ歌舞伎の因習の中で、長女・しのぶは幼少期に「なぜ自分は舞台に立てないのか」という絶望を味わいながらも、現代演劇や映画の世界へと飛び込み、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を獲得する国際派大女優へと登り詰めました。一方、弟の菊之助は父と同じ歌舞伎の道を歩み、端正な女方から気品あふれる立ち役へと成長、音羽屋の正統後継者として劇界を背負って立つ存在となっています。