契約トラブルが発生した際、最も頻繁に混同されるのが意思表示の無効と取消しの違いです。一般には「どちらも契約が白紙に戻る」とひと括りにされがちですが、法律上の効力と実務対応には決定的な隔たりが存在します。
法律上、「無効」とは最初から一切の法的効力が生じていない状態を指します。誰からの主張を待つまでもなく当然に効力がなく、時間が経過しても有効に化けることはありません。一方、「取消し」は、取消権者が正式に「取り消します」と意思表示をするまでは一応有効に成立しています。しかし、ひとたび取消権が行使されると、契約時に遡って初めから無効であったものと扱われます。
また、意思表示を成立させる大前提として、民法は意思能力と行為能力を峻別しています。自分の行為の結果を弁識・判断できる精神的能力である「意思能力」を欠く状態(重度の認知症や酩酊状態など)で行われた法律行為は、民法3条の2により「絶対的無効」となります。一方で、未成年者や成年被後見人といった判断能力が不十分な人々を保護するために定められた「行為能力の制限」に基づく行為は、法定代理人による「取消し」の対象となります。