キム・ムヨルのキャリアを語る上で避けて通れないのが、過去に取り沙汰された兵役を巡る騒動です。ネット上では「兵役不正免除ではないか」という短絡的な噂が囁かれた時期もありましたが、当時の公式記録や監査院の公表資料を精査すると、その背景には壮絶を極める家庭環境と家族愛の物語が存在していました。
彼が20代前半の若手俳優だった頃、実父が突然の脳出血で倒れ、植物状態となって長期療養を余儀なくされました。その結果、治療費や入院費がかさみ、実家は3億ウォンを超える莫大な借金を抱えることになります。母も高齢で労働能力がなく、一家の衣食住と父の延命治療費のすべてが、駆け出しの青年だったキム・ムヨルひとりの双肩に重くのしかかりました。
当時の韓国の兵役法では、扶養義務者がおらず本人が唯一の稼ぎ手で家族を養わなければならない場合、「生計維持困難者」として免除(第2国民役)が法的に認められていました。キム・ムヨルも所定の行政手続きを経て、2010年に正式な免除処分を受けています。ところが2012年、監査院が芸能人の兵役免除プロセスを一斉点検した際、「免除申請の前後に俳優としての収入が発生していたのではないか」という指摘がなされ、メディアで大きく報じられる事態へと発展しました。
その後の詳細な再調査の結果、意図的な所得隠蔽や虚偽申告などの法的な不正・違法行為は一切なかったことが明白に立証されています。しかし、連日の過熱報道によって家族や関係者が傷つく姿を目の当たりにしたキム・ムヨルは、極めて潔い決断を下しました。「法的に問題がなかったとしても、世間に誤解を与え、心配をかけた道義的責任を取りたい」として、自ら免除判定を返上し、2012年10月に陸軍へ現役入隊を志願したのです。
彼は第12師団乙支(ウルチ)部隊などで実直に服務を全うし、2014年7月に満期除隊を迎えました。非難から逃げることなく、真正面から社会的な義務を果たし切ったこの誠実なケジメこそが、除隊後に監督やプロデューサー陣から絶大な信頼を勝ち取り、現在の栄光へとつながる決定打となったのです。