ニューヨークの地下鉄構内に突如現れたチョーク・ドローイング(サブウェイ・ドローイング)で一世を風靡し、ストリートアートを世界的なファインアートの領域へと押し上げたキース・ヘリング。その専門美術館がなぜ、大都市ではなく日本の山梨県・八ヶ岳の地に存在するのか、多くの来館者が驚きを隠せません。
この美術館の礎を築いたのは、製薬関連企業シミックホールディングスの創業者である中村和男氏です。1987年、中村氏が仕事で訪れたニューヨークの街角でヘリングの作品と運命的な出会いを果たしたことがすべての始まりでした。混沌とした都会のストリートで、社会の不条理や差別、病への恐怖に立ち向かいながらも、圧倒的な生命賛歌を描き続けたヘリングのエネルギーに深く心を揺さぶられた中村氏は、私財を投じてコレクションの収集を開始しました。
現在収蔵されている中村和男コレクションは300点を超え、初期のドローイングから大型の絵画、立体彫刻、写真資料、さらにはAIDS撲滅や反アパルトヘイトなどのポスター群まで多岐にわたります。八ヶ岳の豊かな自然と縄文文化の息吹が残る小淵沢という土地は、人間本来の生命力や自然との共生を直感させる場所であり、ヘリングが希求した「生と死のサイクル」を表現する舞台として選ばれました。