数あるロープワークの中で、古今東西を問わず「結びの王(キング・オブ・ノット)」と称されるのがもやい結び手順と結び方です。船を岸壁につなぎ止める(もやる)ために使われてきたこの結びは、どれほど強いテンションが掛かっても輪の大きさが変わらず、かつ解きたい時には輪の根元を押し倒すだけで瞬時に解けるという完璧な力学特性を持っています。
現代の生活において、もやい結びの習得は単なる趣味の領域を超え、実用的なリスクヘッジとなります。
第一に、アウトドアにおけるテントやタープの設営です。突風でペグが抜けないよう立木に強固に結束する際、もやい結びを素早く組めれば、強風下でも構造体の崩壊を防ぐことができます。第二に、防災で役立つひも結び活用法としての役割です。浸水被害時に家財を2階の手すりへロープで引き上げる作業や、避難時に家族がはぐれないよう安全ベルト代わりに体へ輪をかける際、もやい結びは絶対に締め付けによって体を圧迫することがありません。
防災現場では、もやい結びに加えて以下の3つの基本結びを習得しておくことが推奨されます。
・本結び(スクエア・ノット):同じ太さの2本の紐を素早くつなぎ合わせる。三角巾の端を結ぶ際にも必須。
・巻き結び(クローブ・ヒッチ):丸太やポール、電柱などにロープを仮固定する際の最速結び。
・ねじり結び(ティンバー・ヒッチ):木材や瓦礫を引きずって運搬する際、荷重がかかるほど木肌に食い込んで滑らない。
これらの技術は、危機の瞬間に思い出そうとしても決して手が動きません。平時に平穏な自宅で、書籍の図解を見ながらロープの端切れで指先に記憶させておく訓練が不可欠です。