「たった数回の穴あけで刃が丸くなって削れなくなった」という嘆きの9割は、潤滑冷却の欠如が原因だ。ステップドリルは常に金属同士が高圧で摩擦し合う過酷な環境に置かれている。摩擦熱が500度を超えれば、どんなハイス鋼(高速度鋼)も硬度を失い、チタンコーティングも一瞬で剥がれ落ちる。
ここで生命線となるのが切削油だ。トラスコ中山株式会社などが展開する不水溶性切削スプレーやペースト状のタッピングペーストを、作業前に刃先と加工箇所へ惜しみなく注油する。これだけで摩擦係数が劇的に下がり、発熱が抑制され、工具の寿命は3倍以上に跳ね上がる。
ステンレス鋼などの難削材を相手にするなら、塩素フリーの高潤滑タイプや専用の冷却ジェルが威力を発揮する。煙が立ち上る前に作業を止め、こまめに注油を繰り返す。この一手間を惜しまないことこそが、工具を長持ちさせるプロの流儀だ。