宮崎吾朗監督がメガホンをとった映画版は、原作第3巻『さいはての島へ』をベースにしつつ、宮崎駿の絵物語『シュナの旅』やユング心理学の要素を大胆に融合させている。ここで重要な役割を果たすのが、主人公アレンとクモの対比構造だ。
アレンは自らの心の闇(影)から逃げ出すあまり、生きる実感を見失い、父王を刺すという凶行に走った。対するクモは、死を恐れるあまり自らの影に呑み込まれ、命の価値そのものを否定した。つまりクモとは、「死を恐れるあまり生の輝きを見失った人間」の成れの果てであり、アレンが陥りかけた破滅の未来像そのものだったのだ。
ル=グウィンが描いた原作の哲学的で静謐なバランス論に対し、ジブリ版は「命を大切にしない現代人への警鐘」という極めてストレートで生々しい人間ドラマへと焦点を絞り込んだ。このアレンジこそが、公開当時の賛否両論を呼びつつも、今なおカルト的な引力を持つ理由となっている。