がんの摘出手術を無事に終えた直後、2019年4月に発表されたのが、名前を「亜門」から旧字体である「亞門」へと改名する決断でした。四半世紀以上にわたり「宮本亜門」として国際的な名声を築き上げてきたブランドを、なぜこのタイミングで変えたのか、当時は様々な憶測が飛び交いました。
公式発表資料および当時の記者会見で明かされた真意は、極めて哲学的かつ実存的なものでした。「亞」という象形文字は、古代中国において「背骨が曲がった人」「墓の地下構造」などを象ったとされ、転じて「二番目」「背中を合わせ支え合う」といった意味を持ちます。宮本本人はこの字形について、「自分が主役として突っ走るのではなく、他者と背中を合わせ、寄り添い支え合う存在でありたい」「アジア(亞細亜)から世界へ向け、より深みのある祈りを届けたい」という願いを込めたと述懐しています。
文字通りの死生観の変容が、名前の一文字に凝縮されていたのです。画数や姓名判断といった俗説を超え、大病を経験して「一度死んだ自分」が第二の人生を始めるための通過儀礼として選ばれた「亞門」の文字。この決断以降、彼の演出作品にはこれまでの華麗なエンターテインメント性に加え、人間の弱さや祈りを受容する柔らかな深みが顕著に現れるようになりました。