セルフケアを行うなかで、膝裏にぷにぷにした弾力のあるコブや、硬い塊を見つけて不安を覚える人は少なくありません。膝の裏を押すと痛いしこりに遭遇した場合、絶対にやってはいけないのが「力任せに押し潰そうとすること」です。
中高年以降や、日常的に膝を酷使するスポーツ愛好家に多発するのがベーカー嚢腫(膝窩嚢腫)と呼ばれる病態です。膝関節の内部には滑液(関節液)という潤滑油が存在しますが、関節炎や半月板損傷、加齢に伴う軟骨の摩耗によって滑液が過剰に分泌されると、膝裏の滑液包へ袋状に溜まり込みます。これがしこりとなって表出するのです。
整形外科の専門医は、民間療法による誤った自己処置に対して次のように警鐘を鳴らします。「ベーカー嚢腫で腫れ上がった滑液包を強いマッサージで圧迫すると、嚢腫が破裂し、漏れ出た滑液がふくらはぎの筋肉内へ広がって強い炎症(偽性血栓性静脈炎様症状)を引き起こす恐れがある」。
医学的知見に基づくベーカー嚢腫の膝裏での治し方は、セルフマッサージではなく整形外科での専門的治療が基本となります。穿刺(せんし)によって注射器で溜まった液を吸引する処置や、ステロイドの局所注入、さらには根本原因である変形性膝関節症や半月板の治療を進めることで自然と消失していきます。
また、膝の裏が痛い原因の現在における知見として、血管トラブルへの警戒も欠かせません。長時間同じ姿勢を続けたあとに片側の膝裏からふくらはぎにかけて腫れと強い圧痛が生じている場合、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)の疑いが生じます。血栓が存在する部位を不用意にマッサージすると、血管壁から剥がれた血栓が血流に乗って肺へ到達し、致死的な肺塞栓症を引き起こす危険性があります。単なるコリではない「腫れ・熱感・拍動痛」を伴うしこりは、直ちに専門医の診察を受ける必要があります。