1995年から翌年にかけて放送されたテレビシリーズの第25話・最終話は、主人公の内面世界のみを描き切る前代未聞の構成で幕を閉じ、ファンコミュニティに激震を走らせました。この未完とも受け取れる幕引きに対し、制作サイドへ殺到した賛否両論の嵐と強烈な要請に応える形で制作されたのが、もうひとつの結末を描く旧劇場版プロジェクトです。1997年春の『シト新生』を経て、同年夏に第25話「Air」と第26話「まごころを君に」の2部構成で公開された本作は、商業アニメーションの枠組みを根底から破壊するエネルギーに満ちていました。
物語の根底にある「人類補完計画」とは、肉体という個別の境界線を失わせ、すべての魂をひとつの完全な生命体へと融合させる計画でした。知恵の実を持つ人類(リリン)は、個々が独立しているがゆえに孤独や不安を抱え、互いに傷つけ合って生きています。そこで、始祖たるリリスとアダムを融合させ、魂の器である肉体を消滅(LCL化)させることで、他者との境界や痛みのない永遠の安らぎを得ようとしたのがゼーレや碇ゲンドウの狙いでした。
戦略自衛隊によるNERV本部への容赦なき武力侵攻、弐号機を駆るアスカの壮絶な戦死、そして巨大な白いリリスの顕現。世界がオレンジ色のLCLの海へと還元されていくなか、補完計画の中心に据えられたシンジは、すべての他者が溶け合い、傷つけられることのない全知全能の安らぎを一度は肯定します。しかし、精神世界の中でアスカたちとの対話を重ねたシンジは、ある決定的な事実に直面します。他者がいなければ自分も存在せず、痛みがない世界には本物の喜びや実感も存在しないという真理です。
シンジは最終的に「他人がいる世界」を望み、人類補完計画を自ら中断させました。「自分以外の人間が怖い。でも、もう一度会いたいと思った」という意志のもと、自らの形を強くイメージできる者は再び肉体を取り戻せるという可能性を残して、巨大リリスは崩壊。地球上には赤い海と荒涼とした砂浜だけが残されました。