ネット上の言説や一般的な歴史認識において、最も混同されやすいのが古事記と日本書紀の違いです。同じ神話を扱っていながら、その執筆目的とトーンは全く異なります。
712年に編纂された『古事記』は、天武天皇の命を受け、太安万侶が稗田阿礼の暗記していた伝承を筆記した「国内向けの文学的・皇室正統性の物語」です。そのため、神々の生々しい感情、過ち、エロティシズム、敗者の悲哀などが豊かな物語性をもって描かれています。
一方、720年に完成した『日本書紀』は、中国などの諸外国(当時の唐や新羅)へ向けて「日本の正当な国家体制」を示すための「対外向けの公式正史」です。漢文で厳格に書かれ、「一書に曰く(ある本によると)」と異説を併記する客観的な歴史書の体裁を取っています。神々の破天荒な奇行やドロドロの愛憎劇を人間味豊かに楽しみたいなら、間違いなく『古事記』が適しています。