現代のビジネスシーンにおいて、悪気がないにもかかわらず相手を苛立たせる最大の要因が「過剰敬語」と「二重敬語」です。特に二重敬語の間違いやすい例は、丁寧さを追求するあまり無意識に定着してしまっているケースが目立ちます。
代表的な誤用例として挙げられるのが、「拝見させていただきます」という言い回しです。「拝見する」という語自体にすでに「見る」の謙譲の意味が含まれているため、そこに「させていただく」という許可・恩恵の謙譲表現を重ねると過度な重複になります。日常的には広く許容されつつあるものの、公的な文書や格式の高いビジネスメールでは「拝見いたしました」あるいは「拝見しました」とシンプルに整えるのが、洗練された大人のマナーです。
また、相手に対して「ご覧になられましたでしょうか」と述べるのも、「ご覧になる(尊敬語)」に助動詞「られる(尊敬)」が重なった二重敬語です。正しくは「ご覧になりましたでしょうか」で十分な敬意が伝わります。同様に、「お伺いさせていただく」も「伺う」と「させていただく」の重複であり、単に「伺います」「お伺いします」とするのが自然です。
近年ネット上やSNSのビジネスマナー論争で頻繁に指摘される「過剰敬語シンドローム」の背景には、言葉の誤用を恐れるあまり「敬語表現を足せるだけ足しておけば安全だ」という過剰防衛の心理が働いています。しかし、言葉が長くなればなるほど主旨は曖昧になり、相手に余計な読解負荷を強いる結果となります。敬語は足し算ではなく、適切な語を1つだけ選ぶ「引き算の美学」であることを認識しておく必要があります。