出版業界において、繊細な心情描写と商業的な求心力をこれほど高次元で両立させる書き手は稀有だ。幻冬舎から送り出された本作『ありか』は、劇的な事件や派手なトリックで読者の目を奪う手法とは対極に位置している。描かれるのは、どこにでもある食卓の風景、すれ違う視線、言い淀んだ言葉の隙間に漂う空気感だ。
日々の生活で削り取られていく自己肯定感や、誰にも打ち明けられない小さな絶望。作者はそれらをドラマチックに誇張することなく、ただそこにあるものとして淡々と紙の上に定着させていく。日本文学の系譜において、日常の微細な機微をすくい上げるリアリズムの強度が、本作では極限まで研ぎ澄まされている。