1988年3月13日、青函トンネルの開業と同時に誕生した竜飛海底駅(青森県側)と吉岡海底駅(北海道側)。「青函トンネル地下200メートルの海底駅」として華々しくデビューした両駅ですが、建設当初の設計思想は「旅客の利便性のための駅」ではありませんでした。
本来の設置目的は、全長53.85キロメートルという世界屈指の長大海底トンネル内で万が一列車火災や脱線事故が発生した際、乗客数千人を安全にトンネル外へ誘導・救出するための「定点(非常用避難基地)」です。トンネルの保守基地および防災拠点としてのスペースを活用し、青函トンネルの偉業を国民に体感してもらう教育的・観光的見地から、臨時駅として見学客を受け入れていたという歴史的経緯があります。
長年親しまれたこの駅で、竜飛海底駅廃止の理由となった決定的な要因は、2016年3月に開業を控えていた北海道新幹線の建設計画です。新幹線の高速走行を安全に実現するためには、従来の在来線設備を抜本的に改修する必要がありました。
当時のJR北海道および鉄道建設・運輸施設整備支援機構の公式記録によると、新幹線と在来線(貨物列車)が同じ線路を共用する「三線軌条」の敷設工事、架線電圧を従来の2万ボルトから新幹線用の2万5000ボルトへ昇圧する作業、さらに高速走行時の風圧やホーム離隔(クリアランス)の安全基準改定が重なり、狭小な海底ホームで見学客を乗降させることが物理的・保安的に不可能となったのです。こうして2013年11月に見学専用列車の運行が終了し、2014年3月14日のダイヤ改正をもって、JRの旅客駅としての歴史に正式な終止符が打たれました。