漢方において、生命活動を維持するための根本要素は「気(目に見えないエネルギーや代謝機能)」と「血(血液および全身を巡る栄養物質)」に大別されます。どちらか一方が不足しても不調をきたしますが、過労や大病、産後、加齢などによって双方が枯渇してしまった状態を「気血両虚(きけつりょうきょ)」と呼びます。この深刻な衰弱状態を救うために編み出されたのが十全大補湯です。
処方の骨格は、胃腸の働きを高めて気を補う「四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草)」と、造血を促し血行を改善する「四物湯(当帰・川芎・芍薬・地黄)」の合剤にあります。ここに、体表のバリア機能を高めて寝汗を抑える「黄耆(おうぎ)」と、内臓を芯から温めて血行を強力に促す「肉桂(にっけい / シナモン)」の2生薬を加えた計10種類の生薬で構成されています。文字通り「十の生薬で十全(完全無欠)に大いに補う」という意味が込められています。
医療現場で広く処方されているツムラ十全大補湯48の効能には、「体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血」が明記されています。単に一時的な興奮作用で疲労感を麻痺させるカフェイン含有の栄養ドリンクとは根本的に異なり、赤血球の産生や微小循環の改善を促し、組織への酸素供給量を底上げすることで、十全大補湯は貧血と冷え症の改善に直結する生化学的な土台を作り上げます。
全国の漢方専門医への取材でも、「検査で明らかなヘモグロビン低下が出ない『潜在性鉄欠乏(かくれ貧血)』や、手足の末梢血管が収縮して温まらない自律神経失調型の冷え症に対して、極めて理にかなったアプローチができる」という臨床実感が一致して語られています。