まず整理すべきは、言葉の定義とそれぞれの成り立ちです。フランス語の「ラグレ(ragoûter/食欲をそそる・味を整える)」に由来する「ラグー(ragù)」は、イタリア語で肉や魚介、野菜を細かく刻んでじっくり煮込んだ料理全般を指します。つまり、ラグーは広大なカテゴリーの名前です。
そのラグーの代表格が、北部エミリア=ロマーニャ州ボローニャ発祥のラグー・アッラ・ボロネーゼ(いわゆるボロネーゼ)です。イタリア郷土料理の歴史において、ボロネーゼは1982年にボローニャ商工会議所へ正式なレシピが登録されており、牛肉、パンチェッタ、玉ねぎ、人参、セロリ、赤ワイン、少量のトマトペーストやブロード、牛乳を使って「肉の旨味を凝縮させる」ことが厳格に定められています。
対して、日本の食卓でおなじみの「ミートソース」は、第二次世界大戦後にアメリカ軍を通じて持ち込まれたボロネーゼが、日本人の舌に合わせて独自進化した洋食文化の産物です。トマトケチャップやウスターソース、砂糖などを加え、トマトの酸味と親しみやすい甘みを前面に出すのが特徴です。ワインの風味と肉本来の力強いコクを前面に押し出すラグーに対し、ミートソースは「トマト主体の甘酸っぱいソース」という明確な違いが存在します。