観光客が最も誤解しやすいポイントが、名物である水車の稼働スケジュールです。「せっかく訪れたのに止まっていた」という事態を防ぐためには、その歴史的背景と農業用水としての実態を正しく知る必要があります。
「朝倉の揚水水車群」の起源は江戸時代の寛政年間(1789年頃)に遡ります。筑後川から引かれた堀川用水の水位よりも標高が高い農地へ水を汲み上げるため、当時の農民と技術者たちが試行錯誤の末に生み出したのがこの自動揚水装置です。水流の力だけで水車が回転し、木製の柄杓(ひしゃく)が水を汲み上げて樋(とい)へと流し込む仕組みは、現代の工学の視点から見ても極めて精巧なエコテクノロジーです。
ここで決定的に重要な事実は、菱野三連水車をはじめとする水車群が「現役の農業機械」であるという点です。観光用のアトラクションとして年中回っているわけではなく、田畑に水を引く必要がある「6月中旬(田植え期)から10月中旬(稲刈り前)」の約4ヶ月間のみ稼働します。毎年6月中旬に行われる「通水式」を皮切りに水車が回り始め、秋の収穫期を終えると解体・保守点検が行われるサイクルが数百年守り続けられています。