当時、ふたりの現場を間近で目撃していたのが、『時間ですよ』で鮮烈なデビューを果たし、樹木希林さんを「芸能界の母」と慕い続けた浅田美代子さんです。後年の対談や自著において、浅田さんは当時の現場の異様な熱気と、ふたりの間に流れていた強烈な磁場について振り返っています。
久世演出の現場は、台本通りに演じることよりも、役者が生身の人間としてどう揺らぎ、どう反応するかを極限まで引き出す実験場でした。樹木さんは久世氏が何を求めているのかを瞬時に察知し、台本にないアドリブや過激なボケを連発。久世氏はモニターの前で腹を抱えて笑いながら、さらに過酷な要求を突きつけるという、表現者同士の濃密な魂の削り合いが行われていました。
それだけに、生放送での暴露劇は現場全体に凄まじい衝撃をもたらしました。「久世さんを最も理解していた希林さんが、なぜあそこまで残酷なやり方を選んだのか」。周囲には裏切りと映った行為も、樹木さんにとっては、甘えや欺瞞を許さない久世演出に対する「現実世界での強烈なカウンター」であったことが、関係者の証言から浮かび上がってきます。