「アゲハチョウの幼虫だからミカンの葉をあげれば食べるだろう」と思い込んで与え、幼虫を餓死させてしまう失敗は飼育初心者に後を絶ちません。キアゲハはセリ科植物専門のスペシャリスト(単食性寄生者)であり、ミカン科の葉を口にすることは絶対にありません。
この厳格な食草選択の背景には、植物と昆虫の数百万年にわたる進化の攻防があります。セリ科植物は、多くの草食昆虫を撃退するために「フラノクマリン類」という光毒性(紫外線に当たるとDNAを損傷させる有害物質)を持つ防御化合物を蓄えています。しかし、キアゲハの祖先はこのフラノクマリン類を体内の解毒酵素(シトクロムP450群)によって無毒化する代謝システムを獲得しました。
他種の昆虫が食べられない有毒なセリ科植物を独占的に利用できるようになった結果、キアゲハはミカン科を食べる必要がなくなり、母蝶も前脚にある化学受容器でセリ科特有の芳香成分(ルテオリン誘導体など)を正確に感知して産卵するよう進化したのです。