香取慎吾のアートを語る上で欠かせないアイコンであり、同時に「不気味さ」の象徴とされてきたのが「黒いうさぎ」です。一見するとシュールレアリスムのキャラクターのように思えますが、その誕生の経緯は本人の口から非常に生々しいエピソードとして明かされています。
テレビ特番のインタビューや個展のオフィシャル解説等によると、ある時期、自宅のリビングの隅に「黒いうさぎ」が実際に視界に入り込むようになったと本人が告白しています。「そこにいるはずのない黒い生き物が部屋の隅に見えた。追い払おうとしても消えず、ならばキャンバスに描き出してしまおうと思った」という趣旨の発言は、当時の視聴者や美術ファンに大きな衝撃を与えました。
心理学的な見地からこの現象を紐解くと、ユング心理学における「シャドウ(影)」の投射として非常に明快な説明がつきます。幼少期から「国民的アイドル」として常に笑顔で完璧な振る舞いを求められてきた彼にとって、明るい人格(ペルソナ)を保ち続ける代償として、抑圧された孤独や怒り、疲弊といった負の感情が無意識下に蓄積していきました。その蓄積された無意識のエネルギーが、脳の極度の疲労状態と重なり、「黒いうさぎ」という視覚的イメージを帯びて意識の境界に現れたと考えられます。
重要なのは、彼がその現象に押し潰されるのではなく、「絵画として物質化することで自らの内側から外へ切り離した」という事実です。キャンバスに描き留める行為は、無意識の恐怖を制御可能な対象へと変換するアートセラピー(芸術療法)そのものでした。現在ではこの黒いうさぎは彼自身のトレードマークとして受け入れられ、恐ろしい幻影から愛すべき相棒へと役割を変えています。