世界で最も有名なネズミの誕生は、創業者ウォルト・ディズニーが味わった人生最大の危機から始まりました。1927年、ウォルトが手がけていた初期の人気キャラクター「オズワルド・ザ・ラッキー・ラビット」の版権と制作スタッフの多くを、配給元の謀略によって奪われる事態が発生します。失意のどん底にあったウォルトが、ニューヨークからの帰りの列車内で閃いた新しいキャラクターのスケッチこそが、ミッキーマウスの原点でした。
盟友のアニメーターであるアブ・アイワークスの手によって具体化された初期デザインは、現在の丸みを帯びた柔らかな姿とは大きく異なっていました。1928年11月18日に公開されたトーキー短編アニメーション映画作品『蒸気船ウィリー』に登場した初代ミッキーは、白黒のモノクロ画面の中で、尖った鼻と細長い手足、そして黒目がちな「パイカットアイ(パックマンのような切れ込みのある瞳)」が特徴的でした。
その後、1935年の『ミッキーの大演奏会』で初のカラー化を果たし、1939年には名アニメーターのフレッド・ムーアによって瞳に白目が描き加えられ、表情豊かな現代に近い造形へとリファインされました。時代の技術革新と観客の好みに寄り添いながら、ミッキーのデザインは常に洗練を重ねてきたのです。