日本人の味覚の土台を築いてきたNHKの『きょうの料理』において、料理研究家の土井善晴氏が長年提唱し続けているのは「野菜そのものの声を聞く」という姿勢である。
土井氏が手掛けるなすとピーマンの調理法は、過度な下処理や飾りの調味料を徹底的にそぎ落とす。油でじっくりとなすの芯まで火を通し、ピーマンの皮がチリチリと縮れる音を聞き逃さない。調味料は少量の醤油と味噌、あるいは削り節だけで完結させる。
「ええ塩梅」に仕上げられたその一皿は、濃い味付けでマスキングする現代のファストな調理法への静かなアンチテーゼとも言える。素材が持つ水分と油が自然に乳化し、出汁を加えなくとも野菜自体の旨味で深いコクが立ち上がる。伝統的な和食の知恵は、疲れた現代人の胃袋に染み渡る滋味深さを今なお提示している。