車の冠水はどこまで大丈夫?タイヤ半分の限界ラインと水害の真実

車の冠水はどこまで大丈夫?タイヤ半分の限界ラインと水害の真実

車の冠水はどこまで大丈夫?タイヤ半分の限界ラインと水害の真実の真相について、専門知識を詳しくお届けします。

冠水路を無理に突破しようとした車が、水深わずか数十センチの場所で「バキッ」という鈍い金属音とともに突然息絶えるケースが後を絶ちません。その主因となるのが、自動車工学上で最も破壊的な故障モードの一つであるウォーターハンマー現象です。

ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、空気と燃料の混合気をシリンダー内でピストンにより高圧に圧縮し、点火・爆発させることで動力を生み出しています。気体は容易に圧縮できますが、水は極めて非圧縮性の高い液体です。エンジンの空気吸入口(エアインテーク)は通常、グリルの裏側やヘッドライトの脇など、地上から50〜70cm前後の位置に設置されています。しかし、前進する車が前方に「押し波(ウェーブ)」を作り出すと、実際の水深が30cm程度であっても、跳ね上がった波頭が吸気口の高さへと容易に達してしまいます。

吸気ダクトからエアクリーナーを突破してシリンダー内部へと大量の水が吸い込まれた瞬間、強烈な悲劇が起こります。上昇しようとするピストンとシリンダーヘッドの間に挟まった水は圧縮できないため、数千回転で運動するクランクシャフトの運動エネルギーが逃げ場を失います。その結果、鉄やアルミでできたコネクティングロッド(コンロッド)が飴細工のようにくの字にへし曲がり、最悪の場合はシリンダーブロックの側面を突き破ってエンジンが物理的に粉砕されます。

さらに恐ろしいのは、冠水路でエンジンが停止した後のドライバーの行動です。「なぜ止まったのだろう」と焦り、水没車でエンジンがかからない状況でキーを回したりスタートボタンを押し続けたりする行為は、致命的なトドメとなります。セルモーターの強力なトルクで無理やりクランクを回そうとすることで、シリンダー内に残った水が再びピストンをロックし、完全に修復不可能な全損状態へと叩き落とされます。一度水に浸かった車両のエンジンは、絶対に再始動させてはなりません。

鈴木 陽菜
著者

鈴木 陽菜

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