なぜ、時間が経って湿気を含んだエビフライは、卵でとじることによって揚げたて以上の多幸感をもたらす料理へと進化するのでしょうか。その背景には、調理科学における「浸透圧」と「油脂・だしの乳化現象」が深く関係しています。
時間が経過した揚げ物の衣は、内部の具材(エビ)から移行した水分や空気中の湿気によってグルテン網が緩み、油分と水分が不均一に混ざり合って「重たくベタついた状態」に陥っています。この状態の衣を電子レンジで加熱すると、内部の水蒸気がさらに衣をふやかしてしまうため、食感は一段と損なわれます。
しかし、甘辛い和風だしの中で加熱すると事態は一変します。乾燥して油っぽくなったパン粉がだしを急速に吸い上げ、だしの「グルタミン酸」とエビに含まれる「イノシン酸」の爆発的な旨味の相乗効果が発生します。さらに、そこへ流れ込む半熟卵のレシチン(天然の乳化剤)が、衣に残る揚げ油とだしを滑らかに包み込みます。つまり、劣化した油分と湿気が、卵だしのコーティングによって「濃厚な旨味エキスを抱き込んだ極上のジュレ」へと化学変化を遂げるのです。