映画を観た多くの鑑賞者が抱く「こんな人間が本当にいたのか」という素朴な戦慄。その答えは、非情にも「実在した」という点に尽きます。本作の主人公である金俊平(キム・ジュンピョン)のモデルは、原作小説を手掛けた作家・梁石日(ヤン・ソギル)氏の実の父親その人です。
梁石日氏が生前に残した自伝的手記や各種インタビュー資料によると、作中で描かれたエピソードの数々は誇張や創作ではなく、梁氏が幼少期から青年期にかけて目の当たりにした過酷な記憶そのものでした。1920年代、済州島から大阪へ渡ってきた実父は、驚異的な筋力と冷徹な金銭欲を武器に、戦後の混乱期に蒲鉾工場を設立。従業員たちを奴隷のように酷使して莫大な財を成し、やがて法外な金利で同胞を締め上げる悪名高い高利貸しへと変貌していきました。
肉親に対する容赦ない家庭内暴力、妻以外の女性を自宅に囲う傲慢さ、さらには子どもたちが必死に貯めた金品まで力ずくで強奪する振る舞いに至るまで、劇中のエピソードはほぼ実話に基づいています。梁石日氏は父について「憎悪と恐怖の対象でありながら、圧倒的なエネルギーを持った人間だった」と述懐しています。血を分けた実の息子だからこそ描くことができた「人間という名の怪物」の原像が、そこには生々しく刻み込まれています。