パワーパフ ガールズという作品の構造を読み解くうえで外せないのが、創造主であるユートニウム博士とケミカルX、そして最凶の宿敵モジョ・ジョジョの歪んだ関係性です。
物語のオープニングでおなじみの誕生劇は、独身の科学者ユートニウム博士が「完璧な可愛い女の子」を作るため、砂糖、スパイス、素敵なものを調合していた際、誤って謎の化学薬品「ケミカルX」を混ぜてしまったことで大爆発が起き、超人ガールズが誕生したと語られます。しかし、この事故の決定的な引き金を引いたのが誰であったのか、劇場版映画『パワーパフ ガールズ ムービー』で明かされたモジョ・ジョジョ誕生の経緯は、あまりにも残酷な真実を内包しています。
かつてモジョは、博士の研究室で飼われていたごく普通のチンパンジーであり、名前も単なる「ジョジョ」でした。乱暴で落ち着きのないジョジョが実験中の博士の背中を突いたことでケミカルXの容器がフラスコに落下し、大爆発が発生。その衝撃で放出された放射線とケミカルXの変異作用により、ジョジョの頭蓋骨は破裂して緑色の巨大な脳が露出し、人間を遥かに超越した知能を獲得することになります。
しかし、爆発の煙の向こうから現れた三姉妹に博士の愛と関心がすべて奪われたことで、ジョジョは居場所を失い、雨の降る路地裏へと追い出されてしまいました。「父の愛を取り戻したい、あるいは自分を捨てた父と妹たちを破滅させたい」というエディプス的な愛憎とトラウマこそが、知能犯モジョ・ジョジョを動かす原動力となっているのです。
また、タウンズヴィル市長の敏腕補佐官であるミス・ベラムの素顔の真相も、ファンの好奇心を刺激し続けてきた謎の一つです。常に胸から下のグラマラスなボディと豊かな赤毛の巻き髪だけが画面に映り、顔は意図的にフレームアウトや障害物で隠されてきました。10周年記念特番『The Powerpuff Girls Rule!』の中でわずか数フレームだけ素顔(誰もが見惚れる絶世の美女)が開示された歴史がありますが、制作陣が彼女の顔を隠し続けた最大の意図は「無能な男性市長を陰で支える、真に有能で自立した大人の女性」という役割を記号化し、外見ではなくその知性と実務能力に視聴者の目を向けさせるための高度な演出技法でした。なお、2016年のリブート版においてミス・ベラムが「長期休暇中」として作品から退場したのは、当時の制作陣が「女性の性的魅力(ファム・ファタール的描写)をギャグにする表現」を避けるためのコンプライアンス的配慮であったことが関係者から明かされています。