呉湾艦船めぐりの真骨頂と評されるのが、1日の最終便として設定されている特別便「夕呉(ゆうくれ)クルーズ」です。このクルーズの目的は単なるサンセット鑑賞にとどまりません。海上自衛隊の艦船で毎夕行われる神聖な儀式「自衛艦旗降下(じえいかんきこうか)」を、海上から至近距離で目撃することにあります。
自衛隊の規則に基づき、自衛艦旗は毎朝8時の掲揚から日の入り時刻の降下まで掲げられます。夕呉クルーズはこの日没時刻に合わせて日ごとに運航ダイヤが緻密に調整されており、夏場であれば19時前、冬場であれば16時半過ぎに出航します。西の空が紫から茜色のグラデーションに染まり、灰色の艦影が深いシルエットを描き出す中、スピーカーから号令がかかります。
10秒前を告げる副長の声、そして日没の瞬間、基地一帯の艦艇から一斉に響き渡るラッパ譜「君が代」。当直員が直立不動の敬礼を捧げる中、艉(艦尾)に翻る十六条旭日旗がゆっくりと降ろされていく光景は、厳粛な緊張感に満ちあふれています。エンジン音を絞った遊覧船の上でこの儀式を目の当たりにした乗客からは、思わず息を呑む静寂と、儀式終了後の深い感嘆の溜め息が漏れ聞こえます。
この極上の時間価値ゆえに、夕呉クルーズ予約は年間を通じて極めて競争率が高く、特に連休や週末は予約受付開始と同時に枠が埋まることも珍しくありません。呉を訪れることが確定した瞬間、最優先で手配すべきチケットといえます。