なぜここまで成功者が出なかったのか。その理由は、物理力学と人間の生体反応を冷徹なまでに計算し尽くしたミリオンスプーンのルールにあります。ルール自体は「特殊なスプーンの上にボールを乗せ、制限時間内に数々のトラップを通過してゴールへ運ぶ」という至極シンプルなものでした。しかし、シンプルさの裏には恐ろしい罠が張り巡らされていたのです。
まずスプーンの皿部分が極端に浅く、ボールとの接地面積が最小限に抑えられていました。歩行時の身体の揺れはもちろん、心臓の鼓動や呼吸によるわずかな胸の上下動ですら、ボールを皿の縁へと追いやる要因となります。さらに、コース上には傾斜板、段差スロープ、不規則に動く障害バーなど、微細な外力を加えるギミックが連続して配置されていました。
加えて、ミリオンスプーンの難易度を底上げしていたのが「スタジオの収録環境」という心理トラップです。大勢の観客とスタッフが固唾をのんで見守る無音の空間、顔を焦がすような強烈な照明の熱気。挑戦者の手元が汗ばみ、自律神経の乱れから指先がわずかに震え始めた瞬間、ボールは慣性の法則に従ってあっけなく脱落していきました。