アニメ『鬼滅の刃』において、珠世は単なる「味方の鬼」ではありません。自らの手で夫と子供を喰い殺してしまったという消えない原罪を背負い、400年以上の永きにわたり自らを苛み続けてきた悲劇の女性です。この極めて多層的な内面を表現するキャストとして、制作陣が坂本真綾さんを起用した判断は、まさに必然であったと言えます。
子役時代から劇団で鍛え上げられ、8歳でキャリアをスタートさせた坂本真綾さんは、アニメ『天空のエスカフローネ』の神崎ひとみ役で脚光を浴びて以来、『攻殻機動隊 ARISE』の草薙素子役、『〈物語〉シリーズ』の忍野忍役、『Fate』シリーズのジャンヌ・ダルク役、ゲーム『ファイナルファンタジーVII』のエアリス役など、数々の伝説的キャラクターを演じてきました。彼女の最大の特長は、「透明感のある凛とした気品」と「内に秘めた情念の重さ」を同時に響かせる声質にあります。
アニメ第1期の「浅草編」で見せた炭治郎を包み込むような母性的な優しさと、無惨の名を口にする瞬間に漏れ出る凍りつくような殺気。この急激な感情の落差を、坂本さんは過剰な誇張に頼ることなく、微細な息遣いと声のトーン変化のみで具現化しました。音響制作関係者の証言によれば、現場でのアフレコにおいて彼女が発する第一声には、スタジオ内の空気を一瞬で張り詰めさせる圧倒的な説得力があったと伝えられています。